1章 現代の文体論と小説

 20世紀になるまで小説の文体論というのはなかった。19世紀のひとびとは小説の文体というものにそれほどこだわらなかった。それよりも小説について言われるのは、小説の持つ、あるいは書いた人間の持つ思想や政治的位置についてだった。
 たとえ文体を語ることがあっても、小説の文体をかたる事に原則などなかったし、明白だとか流ちょうだとか、伝統的ともいえる文体論があるに留まっていた。
 19世紀も末になるとそういった原始的な状況も多少は改善され、文学全般についての技術的な検討がなされるようになった。そして小説も例にもれなかったわけだが、そこで検討されたのは小説の文体ではなくおもに小説の構成だった。