詩の言葉がとりつづけてきた、限定されたイデオロギー

 はたして小説は芸術的ジャンルである。しかし小説の言葉は、同じ芸術であるところの詩の言葉の枠におさまりきるものではない。一見すると言葉を代表し、芸術的言葉のすべてを包括するような詩の言葉は、歴史の過程とともにある限定されたイデオロギーを持つ。
 言葉の哲学や言語学が前提とするのはそのイデオロギーで、たとえばそれは唯一の無二の自己が語る思考と、唯一無二の自己の言葉が語ることが前提となっている。単一の言語体系のなかで個人が語る。
 この単一の言語体系のうちで個人が語るというものは、文体の歴史に様々な彩りをそえてきた、それは言語体系、という言葉であったり、モノローグという言葉であったり語る個体、アイデンティティという言葉であったりする。
 これらの考え方は、ヨーロッパの一定の社会や・歴史、イデオロギーが的な言葉が持つ運命をわれわれに限定的に教えてくれるし、またそのイデオロギー的な言葉が、限定された社会や、あるいは個人的な歴史のある場面において解決してきた経緯を教えてくれる。