5つの文体。言語というものは多様なレベルを持っている。これは例えば同じ母国語だといっても階層があるのであり、小説というものはこれらの異なるレベルの言葉を使っているものである。
 風呂屋の親父と皇室の言葉、裁判所で取り交わされる言葉と、子供の日記など、同じ母国語のなかに、まったく異質な言葉の階層がある。
 詩を下敷きにした、伝統的ともいえる文体の考えでは、この様々な階層をもっている小説の言葉というものを同時に考えることができない。それらはたいてい一つのレベル、一つの文体の特質を見るにとどまる。同時に起りうるオーケストレーションを、ピアノかそれ以下の単音としてみてしまっている。