交通大戦

 

1980年11月3日、

交通事故によってともだちは死んだ。

ボンネット型の乗用車にはねられて死んだ。

 

ボンネット型の乗用車と接触した際は

 

1.まずバンパーにぶつかる、

2.つづいて下腿の表皮がはがれほねが折れ、

3.衝突時のスピードによって跳ね上げられるか、

そのまま下にひかれるかして、

4.最後に路上に落とされる。

 

ともだちがぶつかったのは国道16号線。

 

ぶつかった乗用車は

法定速度を大きく上回り

時速100キロで走行中だった。

 

ともだちをころした運転手は

歩行者であるともだちを発見したとき

とっさにブレーキをふんだので、

速度はげんしょうし、

丁度時速80キロの所でぶつかった。

 

この時代、

車は法定速度以上のスピードも

まだ出せていた。

 

バンパーにぶつかったともだちのからだは

時速40キロを越すとボンネットの上に打ち上げられ、

70キロを越すとルーフの上、

100キロを越すと車の後方にはね飛ばされる。

 

ぶつかった車は時速80キロだったので、

ともだちのからだは宙に舞い、

衝突した乗用車のルーフの後ろのへりに

強く胸をうった。

 

ともだちの心臓は

そこで停止し、

魂は

死の国の入り口に入ろうとする。

 

アメリカのゆうめいな精神科医であるキューブラーロス

彼女は自著

「死ぬ瞬間」の中で、

病床で死を迎えようとする人々の心理段階を

次の五段階に分けた。

 

1.はじめ、死ぬ事実を受けとった脳は

「そんなはずはない」

と考え、

状況を全否定する。

 

2.次に、ありえないことだが、

じぶんがもし死ぬと仮定してみて、

今ある社会体としての自分の責務を考えて

それが全う出来なくなるならば

「いましんじゃこまる」

と感じ、

 

この理不尽に対抗するための

アドレナリンを放出させて、

怒りのエネルギーを体中にみなぎらせる。

 

3.死ぬ事が明白になり、

蓄えられた怒りのエネルギーは爆発し、

わめきちらし、

泣きじゃくり

あらゆる手だてをつかって生き延びようとする。

 

4.しかし無理なので

これ以上生きる事はかなわない

とさとり、

全身の力は抜ける。

 

5.一切の力がぬけたところで、

事実を受け入れる準備が脳のほうでできて、

ひとはしぬ。

 

こんにち、「理想的な」死のステップについては、

いついかなるときもこの五段階であると

考えられている

 

上に挙げたステップにはもちろん

死んだじょうきょうにおうじた個人差がある。

 

ともだちの場合は

あまりに急な場面だったので、

上の「理想的な」ステップをふまないまま、

魂は死の世界へとやってきてしまう。

 

ともだちは

いろいろな逡巡がないまま

いきなり死が訪れてしまった

 

だからともだちのまぶたは、

地獄でひらくことはかなわないだろう

 

ともだちの魂は、

十分な説明もなされないまま、

この地獄へとやって来てしまったのだ。