吉田さんのこと(1)

 吉田さんは良く呑み、良く食べ、そしてよく笑い金の払いはまずかった。
 小林さんなどは呑みに行くともう向こうのテーブルに吉田さんがいて、へびの
ように体をくねくねさせて大きな声で笑っているので、それを見て「破れ障子が
また来てるな」と一人勝手にあだなをつけて、どこかよそで呑むことにしてい
た。また小林さんが雑誌をひらくとそこに吉田さんの文章があり、小林さんはこ
こでもまた「破れ障子がまた何か書いてるな」と一人合点して別のところを読ん
だ。
 吉田さんはまたよく無茶をするのも有名で、一度横光先生がグラスを割らない
ようじゃあ文士じゃないとかいうと吉田さんは握っていたグラスを割った。それ
からは呑んでいて吉田さんはなにかというとグラスを割り、あいておかまいなし
に急にグラスを割ったりもした。
とにかく吉田さんは呑むのが好きで、入院してもギネスビールを片時もはなさな
かったので、当然医者にはよく怒られた。また病院を抜け出して呑みにいったり
するのでこれもまた怒られた。結局呑んだせいで命を縮めたのだが、吉田さんと
いうとそういう印象がある。

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