夏の朝ははやばやと起きて(3)

 夏の朝、ははやばやと起きて、道がふたてに分かれている所まで歩いて行く。
Mが重い鎖のような時計を外して、それをわたしの手に預ける。道がふたてに分
かれている所には花の咲く木があって、それを確かめる。まだ誰も起きてはいな
くて、道がふたてに分かれている所の花の咲く木の枝に幽霊が引っかかっている
のを確かめる。

 あれはくびをくくって死んだ人の幽霊だなんて随分陳腐なことを言うわたしは
心のなかで笑っていて、Mはぶかっこうな膝を出す服を着るし、あまいべたべた
した飲ものや食べものをその上にこぼすし、わたしがハンカチを貸してやるのに
またこぼすし、どうして汚すことがわかっているのに白いシャツの日にケチャッ
プのかかったオムライスなんか食べるのかわからない馬鹿なこども。

 それでこころの底から嫌になった私が外を見ると道がふたてに分かれている所
の花の咲く木にはいっぱいに花が咲いていて綺麗だねってMが笑って言う。わた
しがMを好きなようにMは誰かが好きで嫌になることはあるのだろうかと思った。
こころの底であざ笑って、馬鹿みたいって考えて、うんざしして外を眺めると、
花や星や犬や猫や鳥や、そういう何か綺麗なよいものを見付けて自分にしかそれ
がその誰かとその誰かとそっくりだっていうことに気が付かないことにいたたま
れないような祈るような気持になることはないのだろうかと、夏の朝、はやばや
と起きて思った。

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